緑内障はとても一般的な病気であり、40歳以上の20人に1人が、60歳以上では10人に1人が緑内障を患っていることがわかっています。一方で、緑内障は日本の失明原因の第1位の病気であることから、「失明する病気」「怖い病気」というイメージが持たれがちですが、必ずしもその通りではありません。進行はゆっくりで、適切に治療を行えば失明することは稀で、通常の日常生活に支障をきたすことも少ない病気です。緑内障は早期に発見して、適切な治療を行い、長くつきあっていくことが大切です。
私たちは、網膜に映った像が視神経を通して脳に届くことで「見えた」と認識します。緑内障は、眼圧や遺伝など何らかの原因で視神経が障害され、神経線維が少しずつ減ってしまうことで視野のなかに見にくい部分が生じてくる病気です。
眼球の断面図
光は角膜と水晶体を通過して、目の奥にある網膜に達します。 網膜に達した光の情報は電気刺激に変換され、視神経を伝って脳で認識されます。 緑内障はこの視神経が障害を受けることで、脳に情報が伝わらず、見える範囲が少しずつ欠けていく病気です。
緑内障では見える範囲(視野)が少しずつ狭くなっていきますが、人によって視野の欠け方や視野が欠けていくスピードは様々です。症状の初期は、ダメージを受けた神経線維が担っていた部分の視野が、見えない「点」として現れます。進行するにつれ、見えない範囲がどんどんと拡大、融合し、視野が狭くなっていきます。緑内障の視野障害は真っ黒に見えなくなるのではなく、「輪郭がはっきりとしない」、「霞んでみえる」、「濃い霧の中に入っている」といった見えにくさを感じます。
緑内障の見え方
緑内障の進行は非常にゆっくりで、もう片方の目が欠けた視野を補ってくれることもあり、初期から中期にかけての自覚症状はほとんどありません。物を見る真ん中近くまで視野障害が達すると極端に見えにくくなるため、ご自分で視野の異常に気付くようになります。しかし、この段階ではかなり進行してしまっているケースが少なくありません。一度欠けてしまった視野は戻すことができないので、緑内障は早期発見、早期治療が大切な病気であるといえます。緑内障が増えてくる40歳を超えたら、定期的に目の検査を受けておくことが大切です。
緑内障の原因はまだよく分かっていませんが、高齢になるにつれて患者数は増えることから、加齢が危険因子であると考えられています。また、高い眼圧や、遺伝、近視、偏頭痛、高血圧、糖尿病なども緑内障を発症する要因と考えられています。
眼圧とは、「目の中の圧力」で目の硬さを指します。目の中は液体で満たされており、この液体を「房水」と呼びます。目の中の房水の量が多いと、目は硬くなり、眼圧は上がります。逆に、目の中の房水の量が少ないと、眼圧は低くなります。 房水は水晶体の付け根にある「毛様体」から作られ、目の前のスペースに向かい、角膜と虹彩の間にある「線維柱帯」と呼ばれる網目構造の組織から目の外に出て、全身に戻っていきます。通常は、房水が目の中を一定の圧力に保つことで、20mmHg以下の眼圧を維持します。 眼圧検査は、緑内障の診断や治療効果の判定にとても大切です。
角膜と虹彩が出会う場所を「隅角」と呼びます。隅角には、目の中の水(房水)が眼外へ排出される排出口(線維柱帯)が開いており、眼圧を調節するための重要な場所となっています。 この隅角の状態によって緑内障は、「開放隅角」と「閉塞隅角」の大きく2つのタイプに分類されます。さらに、原因がなく病気がおこる「原発性」と、他の疾患によって引き起こされる「続発性」に分けられます。また、生まれつき眼圧調整がうまくできず、発症するタイプもあります。
隅角は開いていますが、隅角以後の線維柱帯やさらにその先で房水の流れが滞り、眼圧が上がってしまい起こるものです。主に、房水の出口にある線維柱帯という網目構造の組織が目詰まりを起こして、房水が眼外に流れにくくなることが原因と考えられています。
一般的に正常な眼圧は20mmHg以下とされていますが、眼圧も隅角も正常であるにもかかわらず、視神経が弱いために発症してしまう緑内障です。進行はとてもゆっくりです。開放隅角型の一つで、緑内障全体の7割以上がこのタイプであり、日本人に最も多い緑内障といえます。
房水の出口である隅角が狭くなり、閉塞することで、眼圧が上がってしまうタイプです。緑内障全体に占める割合は少ないですが、なかには隅角が急速に全て閉じて、急激な眼圧上昇をきたすケースもあります。急性緑内障発作といい、目の激しい痛みや頭痛、嘔吐を伴い、急激に見えにくくなります。この発作が起こったら、救急対応が必要となります。
ぶどう膜炎などの目の病気や外傷、ステロイド薬の副作用などで眼圧が上昇し、起こるタイプです。原疾患に対する治療も大切となります。
生まれつき隅角が未発達であることから、眼圧がうまく調整できず、起こるタイプの緑内障です。
緑内障の進行はゆっくりとしているため、ご自身ではその変化に気付きにくいです。緑内障の発症が増える40歳を過ぎたら、定期的に検査を受けて、病気を早期に発見し治療を始めることが大切です。
緑内障のタイプを分類するほか、治療を始めるタイミングや治療開始後の効果判定などに不可欠な、とても大切な検査です。角膜に空気を吹き付けて測定する方法と、角膜に小さなチップを接触させて測定する方法があります。後者の方がより正確に眼圧を測ることができます。測定前には表面麻酔薬を点眼するので痛みはありません。
視野の中に見えにくい部分がないかを調べる検査です。ドーム状の装置に顔を固定し、光が見えたらボタンを押します。視野検査も眼圧検査と同様に、緑内障を診断し、病気の進行や治療の効果を判定するうえでとても大切な検査です。
点眼薬で瞳孔を開いて目の奥(眼底)を観察する検査です。視神経の線維が束になって目から脳につながる部分を「視神経乳頭」と呼び、中央に凹みのあるドーナッツのような形をしています。緑内障になると、ドーナッツにあたる視神経線維が減っていくため、中央のくぼみが大きく、深くなっていきます。この状態を「視神経乳頭陥凹拡大」と呼び、緑内障の疑いがあります。眼底検査ではその部分を詳しく調べます。
光干渉断層撮影(OCT: Optical Coherence Tomography)では、近赤外光を眼底に照射して、視神経乳頭や網膜表面にある視神経線維層の厚みを測定します。緑内障になると、視神経線維層が薄くなるため、この検査により神経の状態をより詳細に把握することができます。初期緑内障の診断や進行判定、まだ視野に異常のない緑内障予備軍の発見にとても有用です。
OCTの解析結果
房水の眼外への出口である隅角の状態を観察します。緑内障のタイプを分類するために必要で、隅角が開いていれば「開放隅角緑内障」、閉じてしまっていれば「閉塞隅角緑内障」となります。
「角膜」と呼ばれる黒目の表面の厚みを測る検査です。眼圧の値は角膜が極端に厚かったり、薄かったりすると、誤差が生じることが知られています。緑内障の治療に重要な眼圧を、正しく評価するために必要な検査になります。
緑内障で障害を受けた神経を再生する治療方法はまだ見つかっておらず、残念ながら失われた視野を元に戻すことはできません。そのため、現在の緑内障治療は眼圧を下げることにより、視神経にかかる負担を減らし、視野障害の進行を遅らせることを目標に行います。 緑内障のタイプや進行の程度によって、薬物療法、レーザー治療、外科的療法を選択します。
眼圧を下げるためには、房水の作られる量を減らすか、出ていく量を増やす必要があります。これらのどちらか、もしくは両方の効果のある点眼薬を使い治療を行います。
これらを1種類だけで使うこともあれば、数種類を組み合わせて使うこともあります。多くの点眼薬が必要となる場合は、いくつかの成分を合わせた配合剤を用いることで、できるだけ少ない点眼回数で、十分な効果を示す点眼薬を調整します。
「選択的線維柱帯形成術(SLT: Selective Laser Trabeculoplasty)」は、隅角にある「線維柱帯」にレーザーを照射して、線維柱帯内の詰まりを解消することで、房水の流れをよくし、眼圧を下げるレーザー治療です。開放隅角緑内障の治療方法になります。
閉塞隅角緑内障では隅角が狭くなることで、房水の出口が塞がれます。「レーザー虹彩切開術(LI : Laser Iridotomy)」は、隅角付近の虹彩にレーザーで小さな穴を開けることで、房水の新たな通路を作り、房水が出ていく量を増やす治療です。急性緑内障発作を起こした場合の治療や、緑内障発作を起こしそうな方への予防としても行われます。
緑内障治療の基本は点眼薬になりますが、点眼治療を行っても十分に眼圧が下がらない、もしくは、視野の欠損が進行する場合は手術が必要となります。 近年、「低侵襲緑内障手術(MIGS:Micro Invasive Glaucoma Surgery)」といわれる新たな治療法が開発され、初期から中期の緑内障であれば、これまでよりも目への負担の少ない手術が可能となりました。ただし、これまでの手術に比べて眼圧を下げる効果は少ないため、進行した緑内障の場合は、比較的負担は大きくなるものの確実に眼圧を下げる「線維柱帯切除術」という従来型の手術が必要になります。 詳しい手術の説明は「緑内障手術について」でご覧いただけます。
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文責:成尾 麻子 院長 【日本眼科学会認定 眼科専門医・視覚障害者用補装具適合判定医師・難病指定医】