正常な視力は1.0以上です。眼球から入った光の情報が、脳に正確に伝わって初めて出る視力です。当たり前のようですがこれは結構すばらしいことで、目の表面から頭の先っぽまで、光情報の通路が全て正常に働いているということなのです。

 この通路がおかしくなる時は、角膜ならば濁りや傷、水晶体なら白内障、視神経なら緑内障といった具合で、程度の差こそあれ、どこがやられても視力は低下します。

 この通路に異常がないか、客観的に調べようとすれば眼底検査や視野検査、MRIなどずいぶん大掛かりなことになってしまいますが、この点視力検査はとても手軽な方法なのです。今まで1.0だった人が、ある日0.7になれば通路のどこかに異常が発生したのです。白内障で0.7だった人が0.5になれば、病気が進んだのかも知れません。視力が悪くなったら、角膜から順番に眼底、視神経へと原因を調べればいいのです。

 このように視力がよいということは、目の病気がないという一つの目安になりますが、もちろんこれが全てではありません。ものを見るということは立体感や色など、実に様々な要素があって、中でも視力とは極めて特殊な状況でものを見る力のことなのです。どれくらい特殊か、視力測定の条件をご覧下さい。

1 目の中心でものを見る
2 明るいところで見る
3 動かないものを見る
4 目も身体もじっとしている
5 遠くのものを見る
6 白地に黒いものを見る
7 見るものの位置がわかっている
8 集中できる環境で見る
9 時間をかけて見る
10片目で見る

他にもあるかもしれません。

 ところが普段の私達の生活とは、人混みで誰かをさがす、電車の中で本を読む、テレビを見るなど、どれをとってもこんな条件に当てはまるものではありません。それは視力とは別の機能といってもよいもので、視力を分担する脳と、飛んでくるボールを見つける脳は別の部分です。

 人間の場合、一つの目にいろいろな機能がついているので分かりにくいのですが、例えばハエトリグモには8つの目があって、何か動くものを発見する目と、その形を判別する(視力)目は別々です。各々の目とつながっている脳も別々で、視力がいかに特殊な機能かわかります。

 その他立体視や色覚など、難しい話はたくさんありますが、ここでちょっと面白い視覚を紹介します。それは短時間にものを見る力で、要は映画を作る原理です。映画は1秒に24コマの絵が流れて、人や車の動きがスムースに見えますが、あれが5コマだと、ぶつぶつの連続写真になってしまいます。24分の1秒という時間は1コマ1コマを認識する能力の限界を超えているので、動きとして見えるのです。

 昔、ビデオがなかった頃には、相撲のハイライトに分解写真というのが使われていました。相撲の勝負どころをlaコマか6コマの写真で再現をするのですが、力士が倒れる時にはカメラマンが一斉にフラッシュをたくので、この閃光が写ってとても見にくい写真だったことを覚えています。

 話は少しずれてしまいますが、ミツバチやハエは短時間でものを見る能力が人間よりも数倍優れていますから、映画を見ると分解写真のように見えているかもしれません。反対にカタツムリはこの能力がとても低いので、分解写真も映画のようになってしまいます。

 見るということは実に様々な機能が合わさっているもので、視力は確かにその中心的な役割を果たしますが、あくまでその中の一つに過ぎないのです。

 だから視力がよくても目が疲れる、糸屑が見える、二重に見えるなど、不愉快な症状はいくらも起こります。でも、考えようによっては、これらの症状はある程度視力がよいからこそ、出てくるのかもしれません。極端に視力が悪かったらゆがみもないし、二重に見えるということもないでしょう。見なければ疲れ目にだってなりません。

 こういう症状の原因をさがす時には、まず中心となる視力を知って、それから必要な検査を進めます。自覚症状の有無にかかわらず、早めに病気を発見する意味もあって、目医者は視力にこだわるのです。