緑内障は、40歳以上の日本人の20人に1人にみられるとても一般的な病気であると同時に、日本における失明原因の第1位の病気でもあります。ゆっくりと進行するため、その症状になかなか気づきにくく、ご自分で見えにくさを感じたときには、視野の大部分が失われてしまっていたということも少なくありません。 緑内障で欠けてしまった視野は、残念ながら元に戻ることはありません。そのため緑内障では、眼圧を下げることで視神経への負担を軽減し、残っている視野を守るための治療を行います。 緑内障治療の基本は、点眼薬による眼圧下降治療になります。しかし、十分な点眼治療を行っても眼圧が下がらない、視野の欠損が進行していく、もしくは、薬の副作用などで点眼治療を続けることができないような場合は、レーザー治療や手術が必要となってきます。 当院では、低侵襲緑内障手術をはじめ、日帰りでの緑内障手術を行っています。
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これまでの緑内障手術は、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)に代表されるろ過手術が主流となっていました。ろ過手術は、眼圧を下げる効果は非常に優れていますが、侵襲が大きく、術後の合併症も比較的多いことから、なかなか早期には勧めにくい手術でありました。 それに対して近年、低侵襲緑内障手術(MIGS: Micro Invasive Glaucoma Surgery)と呼ばれる、目への負担が少なく、比較的安全性の高い手術が開発され、緑内障治療において重要な役割を果たすようになってきています。
MIGSの眼圧を下げる効果は弱いことから、術後も基本的には緑内障点眼薬の手助けは必要となりますが、今ある眼圧を少しでも下げることで、長期的な観点で視野障害の進行を遅らせると同時に、従来であれば必要となったかもしれない、大きな手術を回避できる可能性が期待できます。また、現在使っている緑内障点眼薬を少なくし、点眼忘れなどのリスクを減らす効果も十分に期待できます。
近年では、生涯にわたる「よい見え方」を目標に、視野の欠損が大きくなってしまう前に、早め早めに手術を含めた治療の選択をすることが多くなってきています。 当院でのMIGSは、iStentとマイクロフックを使用した線維柱帯切開術(トラベクロトミー)を導入しており、個々の患者様の状況に応じた適切な治療を選択しています。MIGSの適応は初期から中期の緑内障患者さまに限られ、緑内障のタイプや視野障害が進行してしまって初めからしっかりと眼圧を下げる必要がある患者さまには、従来のろ過手術(線維柱帯切除術)が必要となります。
低侵襲緑内障手術(MIGS)は、いずれも線維柱帯の抵抗を小さくすることで、眼圧下降を図る手術です。線維柱帯とは、目の中を循環している房水が目の外に出ていく場所で、網目状の構造をしています。緑内障になると、この線維柱帯が目詰まりをおこして、房水が目の外に出ていきにくくなることで、眼圧が上がります。MIGSでは、360°ある線維柱帯の一部を切り開き、抵抗を小さくすることで、房水が目の外に流れやすくなり、眼圧が下がるようになります。
マイクロフックと呼ばれる、先端がかぎ状の細い器具を、角膜の小さな創口から挿入し、線維柱帯を180~240°切開します。局所麻酔で、10~20分程度の手術であり、手術自体の負担が少ないことから、早期の社会復帰が見込めます。しかし、線維柱帯を切開すると、目の中に出血が起こることから、一時的にかなり見えにくくなります。ほとんどは1週間程度で見え方は戻りますが、MIGSの中では比較的大きな手術といえます。その分、眼圧を下げる効果も大きいです。
iStent(アイステント)は、チタン製の眼内ステントで、内部が空洞になった筒状の構造をしています。このステントを、線維柱帯に埋め込むことで、房水が目の外に流れ出るためのバイパスを作り、眼圧を下がりやすくする手術です。iStentの眼圧下降効果は点眼薬1~2剤分と決して大きくありませんが、緑内障点眼薬の数を減らし、点眼薬によるアレルギーや角膜障害などの副作用に悩まれている方には、それらの症状を軽減する効果も期待できます。 iStentは、白内障手術と一緒にのみ挿入することが認められており、白内障手術に加えて5~10分程度の時間を要します。目への負担は非常に少なく、検査術後の経過は白内障手術とほぼ変わりません。 当院では、iStent inject Wという、最近モデルチェンジした2本挿入できるタイプのiStentを導入しています。
点眼治療やレーザー治療によっても十分に眼圧が下がらないときに行う手術で、世界中で最も広く行われている緑内障手術です。眼球に小さな穴を開けて、目の中から結膜の下へとつながるトンネルを作り、房水を直接眼外に流すことで、眼圧を下げる手術です。結膜の下に出された房水は、結膜の血管に吸収され、最終的には全身に戻っていきます。手術は局所麻酔で行い、時間は60分程度です。線維柱帯切除術は、術後の眼圧調整が非常に大切であり、術後は頻回に受診していただき、眼圧が高い場合は眼球マッサージやレーザー切糸を、眼圧が低すぎる場合は追加の縫合などが必要となります。通院での治療が難しい場合は、連携病院をご紹介させていただきます。
文責:成尾 麻子 院長 【日本眼科学会認定 眼科専門医・視覚障害者用補装具適合判定医師・難病指定医】